卒後臨床研修は何のためにするのでしょうか?

2009/01/26

 深刻な医師不足、医療崩壊の出口が見えません。不足の原因は今もってはっきりしませんが複合的な要因によるものと思われます。その原因のひとつに、卒後臨床研修制度をあげる意見があります。卒後、研修医が都市部の設備の整った大病院での研修を希望するため地方の病院では医師が不足するようになった、等々です。しかし、制度が変わって以降、大都市の研修医数が増加した事実はなく(東京都を例にとると2008年は2003年比で78%に減少しています)医師不足、偏在の原因になっているとは言い切れません。

 昨年12月17日、厚生労働省と文部科学省が主催する検討会で反対意見があるにもかかわらず、突如臨床研修内容の変更が提示されました。現在2年間の必修科目研修を1年に短縮し、2年目は自分が進路として選択する科目を研修するというものです。先行きは不透明ですが早ければ2010年から実施する意向で、そのためには今年度末(3月末)までに省令や通知の改定をしないと間に合わないとのことです。

 臨床研修は若い研修医がキャリアアップを目指すうえで非常に重要であることは言うまでもなく、良質な医療を担保するためにも充実した研修制度は不可欠です。政府はこれほど制度の根幹にかかわる変更を十分な検証も議論もないまま拙速に決めようとする根拠を説明する義務があります。なによりも、早く専門科を決めさせて現場に投入し、少しでも医師不足解消につなげようという意図が見て取れるのではないでしょうか。

 医療崩壊の根は深く、その改革は容易でなく妥協を求められる分野もあるでしょう。しかし、卒後研修は優れた医師を育成するためにあるという原則を妥協してはいけません。幅広い議論もなく、密室で決めることなど許してはならないことです。

(加古川市 H氏)
[2009.01.15]