スイッチOTCは国民のためになるのか?
2025/09/01
参議院選挙は与党の惨敗に終わりましたが、参院選のなか、「スイッチOTC」を選挙公約に掲げていた政党がありました。
「スイッチOTC」とは現在保険収載医薬品を、処方箋なしで薬局やドラッグストアで直接購入できる一般用医薬品として認め、保険診療による同医薬品の処方を減らそう、あるいは無くそうという提言で、もともとは財務省から発信された提言だと記憶しています。
財務省としては、これにより保険医療費の削減と新薬創生への資金流入を図っているようですが、この政策により国民の健康は守られるのでしょうか?
実はOTC医薬品は同成分の薬価収載されている薬品の保険薬価の10倍以上の価格で販売されているものが殆どで、保険薬価引き下げにより懐具合が苦しい製薬メーカーとしてはOTC医薬品のほうが利ザヤを稼げるといった状況にあります。これも影響してか先のコロナ禍では保険で処方されるべき鎮咳薬が不足していたにもかかわらず、ドラッグストアでは同成分の鎮咳薬がセールとして保険薬価の10倍以上の価格で陳列されており、医療機関で「保険収載医薬品がないため薬局で咳止めを買ってくださいね」と言われた患者さんが、高額であったため購入を諦めたという事例が少なからず存在しました。仮に保険薬価が10円の薬を例に挙げると、保険薬価の10倍のOTC医薬品を10錠購入したとすると、10x10x10=1000円の支払いが必要になります。1割負担の方が保険で同じ成分の薬剤を処方された場合は10x0.1×10=10円で済むところです。
また、麻薬性鎮咳薬の多用による若者の体調不良による救急搬送が増えたといったゆゆしき事態も社会問題となりました。そのほか、OTC医薬品への転換により、医師の診察を受けずにOTC医薬品を自己診断で服用し続けることで、隠れている癌などの病気の発見が遅れる可能性や、副作用の発見が遅れる可能性が危惧されています。
このように、安易なOTC医薬品への移行は数々の社会問題を引き起こす可能性が高いため、控えるべきであります。百歩譲ってOTC医薬品に移行するとしても、保険収載医薬品のOTC化に関しては、副作用や社会への影響について十分な検討をすることと、保険収載医薬品との価格差があまりにも大きく、患者さんの自己負担が増えるといったことのないよう、また過度の保険薬価引き下げによる薬剤メーカーの経営状態の悪化がないよう、政府による価格調整等、多くの検討、調整が必要であると考えます。
(宝塚市 H.A.)