「代替財源を示さずに、消費税を下げる議論だけをするのはポピュリズムの政治である。消費税を守る。」選挙直前の政権与党幹事長のこの発言は、選挙結果に大きな影響を与えそうである。
消費税法第1条第2項により、消費税収入は「年金・医療・介護の社会保障給付と少子化対策の経費に充てる。」とされる。聞き飽きたフレーズである。しかし消費税は一般財源であり使い道が特定されている特定財源ではない。平成26年(2014年)に5%から8% 令和元年に10%へ消費税率が引き上げられ、10年間で税率は倍になったが、社会保障関係費は予算案ベースで、約8%しか増えていない。診療報酬本体(医療従事者の人件費・技術料)は、10年間でわずか2.7%の増加にとどまる。「消費税は社会保障関連費だから・・」は詭弁である。
令和2年(2022年)1月に国内初のコロナ感染者が発生後、国内のコロナ対策の医療・経済支援としての財政支出で、一般政府の歳出額は大幅に増加した。しかし、国の対外純資産は、コロナ禍でも減ることはなく右肩上がりで上昇している(財務省の対外資産・負債残高より)。コロナ対策費を主に国債発行で乗り切ったためであり、国債発行によってデフォルトがおきなかったばかりか、コロナ後の景気は回復し、令和6年(2024)度の国税収は過去最高となった。自民党の積極財政派議員が主張する、国債発行は、資産を増やすことになるという「信用創造の概念」が、正しいことの証左であるといえる。
昭和58年(1982年)当時の厚生省保険局長であった吉村仁が発表した「医療費増大は国を滅ぼす」という論をまだ信じている人が、プライマリーバランスの黒字化という財政規律を重要視するあまり、医療提供体制を壊してしまうことは本末転倒である。一度壊れたものは元に戻すことはできない。

(2025年6月 加古川 Y)